或る草の音

そこにある音楽 ここに置く音楽

白木蓮

 

今年は早くに白木蓮が咲き始めた。いまはもう多くの花が茶色のしみを浮かべていて、地面に花弁が落ちてきている。咲き始めたばかりのつぼみが少しだけある。

 

木蓮の花を見ているとほんとうになにか、ぽん、ぽんと音がするようで、花を見上げては『艸 奏 木 黙』に載せたような楽譜絵を描いたりしている。

楽譜絵でなくふつうな絵も描いてみているのだが、私は白木蓮の花の色がよく見てとれず、描けたという気があまりしない。白なのだが白に黄がまじっているような、いや橙がまじっているような、それでいて空の色や緑がまじっているような、どうにも分析しづらい色に感じる。

さっき、夕暮れのなかで見た白木蓮は、濃い紅紫だった。白とはそういうものかもしれない。

 

母が白木蓮の花を摘んで活け、しおれた花を捨てていた。その花を拾って水に差した。思ったより香りがはっきりしている。花は高いところにあるので香りをしっかりと嗅いだことがなかった。つんとする。

この香りを白木蓮の木は空へ向かって差し伸べている。鳥も虫も来るだろう。

 

梅もほとんど咲き終わり、冬の気配も少しずつ薄れてきた。それでも今夜は冷える。冬らしい日のさいごになるかもしれない。白木蓮もこの寒さで、少し長く花を保てることだろう。もう少しのあいだ、白木蓮の花の音を聴いていたい。