小穴の目的について考えた箇所でまちがいを書いていたので修正しました。そのほか、細かいところの説明を手直ししています。2022年4月12日
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オカリナで低い「ラ」の音を鳴らすときにふさぐ小穴の位置が、(いわゆる)アケタ式の位置だとふさぎにくいという話がネットではずっと言われていて、アケタ式で重宝している自分は肩身が狭い。
最近のオカリナ事情には詳しくないけれど、実際に販売されているオカリナもその多くは別の方式のよう。でも、もしアケタ式が衰退していくようなことにでもなったらいろいろ残念なので、アケタ式の低い「ラ」の小穴(以下、アケタ式小穴と書くことにする)の、自分がやっているふさぎ方とちょっとした活用法を書いてみる。
自分がそうやっているだけで、誰かからそう習ったというわけではなく、ベストな方法かどうかはわからないので、念のため。
こういう話は教室で教える事柄かもしれないけれど、そういう事柄がまるきり世間に伝わらないでただただアケタ式がやりにくいという話だけ流れるのでは、それはやっぱり先細りになってまずいと思う。
アケタ式小穴のことにかぎらず、楽器のテクニックに関してはある程度、こうした話が出回るほうがいいのかなと思う。
★ アケタ式小穴のふさぎ方
【低い「ラ」】
低い「ラ」を鳴らしたいときの小穴のふさぎ方は、どの音から低い「ラ」に行くか、その次にどこへ行くかによって少し変わる。オカリナはどれでも、この音を鳴らすためにどの穴を押さえるかだけでなく、この音からこの音に移るために指をどう動かすかという、音運びに合わせた指の動きが重要だと思う。
たとえば低い「シ」から「ラ」へ行くなら、右手の人差し指(〜小指)の付け根を少し「くいっ」と左に寄せて、その動きで右手人差し指の第2関節近くで小穴をふさぐ。
この穴はふさぎ方のアクションが特別だと思っておいて、この「くいっ」のアクションをさっとできるように慣れるといいと思う。
低い「ド」から行く場合は、中指を向こう側へスライドさせて中指小穴をふさぐのと同時に、この「くいっ」のアクションをやって人差し指の小穴をふさぐ。「くいっ」のアクションは小さく、ちょっとだけする感じになる。
「ソ」や高い「ラ」から行く場合は、私は、「くいっ」のアクションの後の状態になるようにかぽっと指をかぶせる。
【低い「シ♭」】
低い「シ♭」(ラ♯)を鳴らしたいときは、たぶんメーカー添付の説明書などでは右手中指の小穴を開けたままでこの低い「ラ」の小穴をふさぐと書いてあると思う。アケタ式の場合、(1)そのふさぐ小穴を上に書いた「くいっ」のアクションで押さえる方法と(たぶんやや音高が高くなるので息を弱める必要がある)、(2)中指の小穴を全部ふさいで(低い「シ」と同様)それと同時に、中指と同じように人差し指を向こう側へスライドさせて動かし、人差し指の中間あたりで小穴を半分くらいだけふさぐ方法とあって、(1)と(2)を使い分ける。自分はほぼ(2)でやっている。
たとえば「花は咲く」をC管でヘ長調で演奏するときの冒頭、低い「ド」「シ♭」「ラ」の連続する箇所は(2)の方法で吹くとスムーズだけれど、(1)の方法では中指が滑りづらいなと思う。(1)だけ覚えているとなかなか難しいかもしれない。でも低い「ド」と「シ♭」を交互に繰り返すような音運びのときは、(1)のほうがやりやすいだろう。
この音に関してはアケタ式はたしかに、ほかの方式より少し難しいかもしれない。
【難しい音運びについて】
アケタ式はたとえば、低い「レ」と低い「ラ」を交互に繰り返すようなメロディーが難しい。でも、低い「ラ」から低い「レ」に移るだけなら慣れればかんたんにできるようになると思う(「コンドルは飛んでいく」の冒頭がこれ)。
いっぽう、たとえば低い「ラ」と高い「ラ」を交互に繰り返すのは、アケタ式では(指の動きだけなら)ぜんぜん難しくない。
小穴の位置のいろいろな方式はそれぞれちょっと苦手な音運びがあるけれど、たいていの場合はどの方式でも、慣れや工夫で対応できると思う。
★ アケタ式小穴の活用法
【チューニング】
で、アケタ式小穴は実はチューニングに使える。低い「ラ」を使わないでそれより上の音域だけ使う場合限定の話だけれど、小穴を少しふさぐことでピッチを下げることができる。
はがせるシールを穴の縁にかかるように貼って穴を少しだけふさぐと、楽器のピッチを下げられる*。この状態でたとえば低い「ド」を鳴らすと、シールを貼らないときの音よりも、穴をふさいだ分、音が下がる。
*このときピッチの下がり具合は低い音域ほど大きく下がる。低い「ド」のあたりだとけっこう下がるけれど、高い「ミ」「ファ」のあたりではほとんど下がらない。なので、この方法でピッチを調節する場合、息の入れ加減も変わってくる。適切なピッチを出すためには息の調節をする必要がある。
また、演奏中に右手人差し指を本体に寝かせて穴を少しだけふさいで、演奏中にピッチを下げるという使い方ができる。演奏中にオカリナが温まってきてピッチが上がってきたときや、調子に乗ってきて息が強くなってきたときに、その方法でピッチが上がるのを抑えることができる。ほかの方式のオカリナだとこういう使い方がちょっと難しい。
【音を強める】
逆に、音高を保ちながら強く吹きたいときにも同じようにしてこの小穴が使える。ふつう少しずつ息を強めていくと音高が上がっていく(うわずる)けれど、少しずつ息を強めるのと同時に少しずつ小穴を指でふさいでいくと(ふさがないで指を穴の上にかぶせていくだけでも)、音高を上げずに音を強くしていくことができる。この方法でクレッシェンドができる。
ある音をふだんよりも強く吹きたいというときに、小穴をふさいで強い息で演奏するということもできる。
この方法は小穴にかぎらず、どこかの開けている穴の上に指をそっとかぶせていけば同じことができるので、アケタ式が特にやりやすいというわけではない。でも、小穴が自分から見て(自分の指から見て)奥のほうではなく手前のほうにあると、こういう目的で使いたいときに操作しやすいのはたしかだと思う。
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ここからは自分の想像というか推察が入るけれど、アケタ式の小穴はもともと、低い「ラ」を鳴らすためというよりは、ピッチを安定させる目的が大きかったのだろうと思う*。
* それ以外のねらいもあったのではないかと思う。でも細かい話になるのでここでは掘り下げない。
むかし、ほとんどのオカリナは指穴が10穴で、最低音(指穴を全閉鎖して鳴らす音)が低い「ド」だった。ただ、オカリナはピッチが気温や息の強さで変わってしまう性質があって、特に息の強さによる変動は低い音域ほど大きい。低い「ド」あたりは息のちょっとした加減で大きくピッチが変わってしまう。低い「ド」までフルに使いたいとき、その点が吹き手にとっては難しさになっていたと思う。
そこで、オカリナをあらかじめ少し大きいサイズで作ることにして最低音の音高を下げる。最低音の音高を下げると低音域がさらに低いほうへ広がる分、広がる前のもとの音域でのピッチ変動が小さくなる。
アケタ式はそういうふうにして、最低音を低い「ラ」に相当する音高(C管の場合だとA)まで下げ、小穴を2つ開けて低い「ラ」や「シ」の音を出せるようにしてキーを整え*、従来のオカリナの音域である低い「ド」から上の音域でピッチ変動を抑えようとしたのだろう。
*穴の数が10穴そのままだとこの拡大版オカリナは、最低音である低い「ラ」の音高から始まるキーになってしまう(最低音をAに下げたならAメジャー、イ長調になる…つまりC管でなくA管になってしまう)。キーを変えないためには(C管のままにするには)小穴を追加する必要がある。
それがアケタ式が開発された当時のいちばんの利点だったのではないかと思う。低い「ラ」まで鳴らせるというより、低い「ド」までの音域を安定して演奏できるというのが。
それがしだいに、低い「ラ」まで鳴らせることのほうが重視されるようになって、そのためには小穴の位置がこれでは使いづらいという見方が出てきて、ほかの方式(左手中指小穴など)が登場してきたのではと思う。
いまは12穴オカリナがふつうになって、低い「シ♭」「ラ」をふつうに使うから、その点では別な方式がやりやすいのかもしれない。けれど、アケタ式は上に書いたような活用の幅があるので、自分は重宝している。アケタ式には衰退しないでほしいし、アケタ式のオカリナを持っている方はせっかくだから活用してみたらいいのではと思っている。