或る草の音

そこにある音楽 ここに置く音楽

ぽつぽつ即興のおすすめ

 

 

 自分はパブリックピアノ(ストリートピアノ)の場でぽつぽつと気ままにピアノを鳴らしたり、公園などでオカリナを気ままに吹いたりカリンバ類を鳴らしたりしている。それをとりあえず「ぽつぽつ即興」という言葉で呼んでいる。

 ピアノの場合は文字どおり音をひとつひとつぽつぽつと鳴らすこともあるし、いくつかの音が短いフレーズになるように連ねて、そういうフレーズをぽつぽつ鳴らしていくということも多い。オカリナだとそうした「その場フレーズ」を短く編みながら吹くほか、1回の息で長い音を、音の高さを息だけで変えながらゆっくりと吹いたりもする。なんにしてもテンポはあんまり速くなく、素早い動きは手慣れている動きだけにとどめる感じ。

 

 自分のYouTubeチャンネルに、自分があちこちで演奏したぽつぽつ即興を載せている。例として視聴していただけたら。

 

https://youtu.be/nP3YjupgAhc

この動画はピアノ。右手で鍵盤のひとつひとつを押していく仕方で弾いている。

 

https://youtu.be/glYlCcuV9_g

こちらの動画は同時に2つの音を鳴らしたりもしている。

 

https://youtu.be/HKDnISQL_40

オカリナではたとえばこんなふうに吹いている。もっとメロディーふうに吹くこともある。

 

こちらは載せているぽつぽつ即興のまとめ(再生リスト)。ピアノ、オカリナ、カリンバ類。

https://youtube.com/playlist?list=PLZqTJ76W98UPELVk-p6SFZUUV_Pz1ugZF

 

 このごろは、何かの楽曲を演奏するよりもこうしたぽつぽつな演奏、音鳴らしをしているほうが、なんだか充実感というか、楽器を鳴らしている、音に親しむという気持ちになれる。楽曲を演奏するのは自分の場合どうも、特にどなたかその場におられるような場合、その楽曲(自分が思っているその楽曲イメージ)になるように、音を合わせていこうとして力が入ったり、失敗したという気持ちやリカバリーしたい気持ちが出てきたりしてあたふたしてしまって、そうした充実感に至らないことがある。

 ぽつぽつ即興には間違いというものがない。いや、そのときどきで、何か音を鳴らした後にこの音ではないほうがよかったかも…と思うことはある。でも別に間違いだと思ったり言ったりする必要がない。その音から先へ進めていけば、何かにはなる。その、何かになっていくのを自分で感じ取りながら、でもこのいまは、この音を鳴らし、次の音を鳴らす。そうしていると、そのことにいつのまにか没頭没入している。それが充実感みたいなものにつながっているのかもしれない。

 

 音楽をするとはつまり、知っている曲を演奏すること、知らない曲に取り組んでそれを演奏できるようになって披露すること、というふうに思っている人もたくさんいると思う。でも、できあいの楽曲を演奏することだけが音楽ではなくて、音楽にはいろんな仕方があるはず。

 音楽に少し詳しければ、プロのプレイヤー、特にジャズの奏者が即興演奏をするのを聴いて知っているだろうし、即興演奏と言えばそういうプロの技を繰り出すもの、技術と才能とセンスの見せどころ、みたいなイメージを持っている人も多いかもとも思う。でもそれも即興演奏のひとつのあり方、もっとさまざまありうるあり方のうちのひとつなのだと私は思う。ぽつぽつ即興のような音数の少ない、音をひとつひとつ鳴らし、何かをゆっくりつむいでいくような演奏もまた、即興演奏の様態のひとつとして、あるのだ、できるのだと思う。そう思ってやっている。

 

 

 ところで、ぽつぽつ即興はパブリックピアノ(ストリートピアノ)を弾きたいけれど弾ける曲がない、自信がない、と思っている人におすすめできると思っている。自分は実際いろんなピアノの場で弾いているけれど、そうやっていて困ったこととか文句を言われたことが無いし、失敗がないから後悔することもない。まわりの人たちがどう思っているかは知らないけれど、それを気にしなければどうということもない。たくさんの人が知っているような曲を弾くよりはるかに気楽でいられる。だから、ピアノはさわってみたいけれど何も弾けない、弾ける気がしないというときにもいいと思う。

 たとえば鍵盤のひとつひとつを、ていねいに、ぽつんぽつんと押していく。どんな音が鳴るかをたしかめながら。そうやっていれば、まわりから見ても、まるきりでたらめに弾き真似をしているというよりも何か積極的に試しているように、音の探究をしているように見えてくるのでは…とも思う。

 もし少し「音楽」っぽく聞こえたほうがよければ(上のようなぽつぽつ弾きも音楽だけれども)、鍵盤の黒いところ(黒鍵)だけを鳴らしていくのがおすすめできる。ピアノやオルガンの黒鍵はそれだけを鳴らしていくと「五音音階」という音階、それも日本の童謡や歌謡曲などによくある「ヨナ抜き」音階になっていて、しかもどのような順番で鳴らしてもたぶん何かなじみのある音並び、音運びになる。

 もしピアノのペダルを使ってみたい気持ちがあったら、黒鍵をぽつぽつ鳴らしていくあいだ右のペダルを踏みっぱなしにしていたら、その鳴らした五音音階の音が残って、親しみやすい聞きやすい響きになると思う。それもおすすめしたい。

 もちろん、白鍵も黒鍵も使って、不思議な音の世界を繰り広げてみるのも楽しいと思う。ひょっとしたら、曲をがんばって演奏するよりこうするほうがいいと思われるかもしれないし、こういう音使いのほうが自分のやりたい音楽に近いと思われるかもしれない。

 

 

 音楽は自由だ、と言葉で言うのはぽんと言えるけれど、でも自由と言ってもどうしたらいいの?と思う人も多いと思う。たくさんの人がふつうにやろうとしている仕方、つまり、できあいの曲を演奏すること、それ以外の音楽の仕方をそもそも知らない人がやっぱり多いと思うし、それ以外の仕方で音楽をするなんて考えもしなかった人も多いと思う。

 「ぽつぽつ即興」という言葉はいちおう私が考えた言葉だけれど、私の占有物にするつもりはぜんぜんない。たぶんおんなじようなことをどこかでどなたか、なさっているだろうとも思う。

 「ぽつぽつ即興」の言葉を使っても使わなくてもいいので、これをやってみたいと思われたら、それこそ気軽にやってもらえたらと思う。それだけでなく、それを1つのきっかけにして、自由な音楽のいろんな仕方を見つけたり作り出したりして、自分の音楽をするという体験をぜひ、してもらったらと思う。

 

 ぽつぽつ即興、そして自分が作っているぽつぽつな音楽については、また記事を書きたいと思っている。