或る草の音

そこにある音楽 ここに置く音楽

月に蝋梅

少し霞んでいたと思っていたが、いま外に出たら明るい月だった。いつもいま時分の満月の頃は、蝋梅の花と一緒に月を見る。蝋梅の花びらが月の光に照らされて、美しく光って見える。

 

蝋梅の木はうちには2本。もともと畑だった場所にいくつかの木が植えられたそのうちの1本、そしてもともと庭木だったけれどいまでは密集した木々の中にいる1本。ふだん満月のときに見る蝋梅は畑のほう。夜は足元が悪くて近づけないが、いま満開で、ほのかに香りを湛えながら、枝いっぱいに並ぶ花を月に掲げていた。

 

ふと、木々の中のほうの蝋梅もどうしているか見たくなり、暗いけれど木々の中に分け入って、蝋梅の木の下に立った。見上げて、わあっと思った。ほぼ真上にいる月を囲んで、蝋梅の花々がたくさん、月の光と同じ色に光って空を埋めていた。そのあいだを蝋梅や他の木々の枝が細かく走っている。

 

その花からも木々からも何の音もしていないのにざわめきが聞こえた。しずかなざわめきだった。

 

よく見ると、ここから見上げて月の真下に位置する花は、暗い影になっていて光っていない。月から少し離れて囲んでいる花々が光っている。なので、こころなしか同心円のように光が輪を成している。この季節の太陽は真上には来ない。月だからこその、この光の景色なのだろう。

 

次の満月の頃には、蝋梅の花々はだいぶ落ちて、枝に残っている花もだいぶしおれていることだろう。それでもいくらかは咲いているだろう。いくらか香っているかもしれない。心から春だと思えるようになるそのときまで、できれば咲いていてほしい。また一緒に月を見たい。