或る草の音

そこにある音楽 ここに置く音楽

風のオカリナ

 

と書くとなにかファンタジー風な感じになるが、冬の雲の下、寒風の公園でオカリナを吹いた。

 

ここ数日暖かかったのに急に寒くなった。風が強くなってきた。それでも公園方面に出かけたので公園に立ち寄り、公園に寄るとオカリナが吹きたくなった。こんな天気のときに吹かなくてもと思いながらベンチに荷物を降ろしてもうオカリナを出していた。

ベンチは水際。池には杭が並んでいてその上にアオサギが留まっていた。たぶん、餌をやりにくる人を待っているのだ。アオサギには悪いけれど餌はやらずにオカリナを吹く。最初はいろいろと音を鳴らしてみて、そのあと、即興で民謡風のフレーズを吹く。2月の風の日なので、そういう歌詞がある「西浦の子守唄」も吹いた。音は風に乗るのか消されるのかわからないが、風に向かってひとしきり演奏した。

杭にはユリカモメもやってきた。つがいの鴨が泳いできた。餌を期待されているのだろうけれど、餌をやる様子が私にはないだろうに、ずっと杭の上にアオサギもユリカモメも居る。餌とか人とか言うより、それが彼らなりの寒風への耐え方なのかもしれない。

 

そうしてしばらくのあいだ、鳥たちの隣でオカリナを吹いた。きょうはこの水辺の道を通る人も少なく、それでも後ろにどなたか立ち止まっていた時間もあったようだが、この風に向かって吹いているのがしあわせだった。

これで吹き終えたと思ったとき、水面の向こうのほうでぱたぱたぱたと大きな音がした。この前もここでオカリナを吹き終えたときに同じ音がしたのだった。拍手をいただいたのかと思ったのだが、水面の鳥が翼で水を打つ音だった。それでもいままたこのタイミングで聞こえてきたのは、拍手をいただいたのだと受け止めるのがよいのかもしれない。

 

こんな風の中でも自分はこうしているのがやっぱりしあわせなのだなと帰り道つくづく思った。風邪はひきたくないのでそこには気をつけようと思う。