或る草の音

そこにある音楽 ここに置く音楽

ほんだらぎ はちじゅうえん!

 

鳥が鳴いているのが聞こえてきた。

 

この時期、いやもう少し春が近くなったらだけれど、うぐいすが鳴き始める。ほとんどの場合、ほーほけきょ、とは聞こえない。ほきょきょきょきょけ、とか、ほーおほっきょきょ、とか。世間では「練習」していると言われるけれど、私にはあるひとつの形に収斂していく様子に聞こえない。むしろ一回ごとに鳴き方を変えて、毎回あえて違うふうに鳴いているように聞こえる。なのでふつうの意味での「練習」ではないと思っているし、ときどきそういうことを書いてもいるけれど、その見解を支持していただいたことがまだない。

 

いま聞こえてきた鳥の鳴き声を、うぐいすのようにいろいろな鳴き方を試すのだろうかと思いながら聴いていたが、この鳥は同じに鳴き続けている。聞こえた感じを文字で書くと、

ほんだらぎ はちじゅうえん!

鳴きなしと言うのか、はちじゅうえん!の部分はもっといい当て字ができそうだが、いったんそういうふうに書けてしまうとそれがおもしろくて考えが止まってしまう。というより、ほんだらぎとは何だろう。

 

続けて何度も何度も、ほんだらぎ はちじゅうえん!ほんだらぎ はちじゅうえん!と鳴いている。ただ、聴いていると、音としては「ほんだらぎ はちじゅうえん!」なのだが、文末の勢いがほんのわずかに違ったりもしている。「!」が「!」×1.5くらいになっているときもある。そう思って聴いていたら、「!」の勢いが失せた、はちじゅうえん…、という感じで、鳴き声が止んだ。

 

鳴き声のしていたほうを見てみたら、声の主は案の定、ひよどりだった。ひよどりは私を見ると、ひーよっ!ひーよっ!と叫んで、さっと飛んで逃げて行った。その逃げた先で、ほんだらぎ はちじゅうえん!と、また鳴き始めたのが聞こえてきた。さっきよりだいぶ小さな音になってしまった。